森の話
きびたきばし

全国で一番短い橋コンテスト。こんな企画があったら・・・。
短いだけではダメ、れっきとした名前が付いていること。そうなるとあの橋はチャンピオンかもしれない。
瑞穂の池を後にして開拓の村の石垣を曲がると、ちょっと見逃しそうな記念館への標識があり、右折する。
丸太で土止めした130段ほどの階段を降りきったところに、その橋はある。白字で <きびたきばし>と書いてある。
欄干に手をやると木の優しさが伝わり、思わずなでて通る。
誰もいないことを幸いに何度か行ったり来たりし、ポクポクと足音を確かめて渡る。

「あれッ」乾いた拍手のような音が、どこからともなく聞こえてくる。耳を澄まし音の方に目を凝らすと何かが動いている。
双眼鏡の向こうに大きなアカゲラが朽ちた木株をつついている。辺りを気にすることもなく一心不乱である。
木屑を飛ばし、みるみる間に穴は大きくなる。あまりの熱心さに欄干によりかかり見とれてしまう。
遂にくちばしに白いものをくわえた。幼虫である。
左右をちらりと見て低空飛行で飛び去って行った。
「あぁ・・ご馳走にありつけたんだ、よかった!」

双眼鏡を覗いている傍らを小声で「おはようございます」と通り過ぎていく老夫婦。小さな橋は満員御礼。
若葉が萌え始めると橋は一層小さくなり緑の中に溶けてゆく。
7歩で渡る小さな <きびたきばし>。
                 


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