森の話
きこりのロウソクとふくろう
「えっ、ロウソク?」「まぁ行けば判るよ。きっと喜ぶと思うよ」。見せたいものがあると山に誘われた。
いつものようにポリタンクに水を汲み、魚を買うため漁港による。
相変わらず魚屋のおじさんは歯切れのいいやりとりで客を笑わせ、気がついたら手いっぱいに買い物袋を下げていた。

下で入った温泉の後ののどの渇きを我慢しつつ、火を起こす。テーブルをセットし魚の焼けるのも待ち遠しく、まず乾杯!!   大いに飲み、笑いの輪が広がる。
自然の中で誰もが穏やかな顔になり、ゆっくりと時が流れる。
深呼吸すると体の隅々まで新しい細胞に入れ替わり、何ものにも代え難い至福の一時。

白樺林の奥のアンヌプリが黒みをおびはじめる。
町の灯が、ぽっかりと闇の中にあり、見上げると輝きを増した星が一瞬落ちたと思った。

なにやら大家さんが両脇に丸太を抱えて登場。30p程のそれを3本ほど地面に立て火をつける。
小さな火は切り込みを入れた所から徐々に吹き出すように燃え上がり、形を変え木を包み、ボォーと辺りを照らす。これぞ今日のハイライト、ダイナミックな<きこりのろうそく>
幻想的な灯りは、今にもどこからか "こびと"が飛び出しそう。森にとてもよく合う。
時が止まったように誰もがじっと火を見つめる。

やがてアルコールもまわり、川や原っぱで遊んだ子どもの頃のこと、昨年見た釧路川下りの犬のことなど火を見ながら話はつきない。
きこりのロウソクは土台を残して燃え尽きようとしているけれど、惜しむように暗がりの中、小枝を集めては放り込む。その度に火の勢いが増し森を照らす。

「くれぐれもこの火を下の町に転がり落とさないように、きこりのロウソクで町が消滅したら一大事だからね」誰かが言った。
燃え残った木株が火の玉になって山を転がって行くのが見えたようで可笑しかった。
近くでふくろうが笑った。「君もそんなに可笑しいの?」ふくろうの笑いをまねて言ってみた。
確かに又ふくろうが笑った。何度も何度も繰り返してみた。同じようにふくろうは笑った。
「ふくろうと話ができるのは貴女ぐらいしか居ないよ」と嘲笑われたけれど、私は少しふくろうに近付いたようで幸せだった。 
急にに霧が流れ始めた。



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