降り続いた雨もようやく上がった10月の最後の土曜日、祈るような気持ちで対岸を覗いてみた。
真っ先に白いものがとびこんできた。「あぁー元気でいてくれたんだ」
ねこは曲がった太い幹の格好の場で秋の日を浴び、相変わらず池を見ていた。
そこだけが長閑な心地よい空間に包まれていた。
四季の移ろいの中、鳥のさえずりに耳を傾け木々の息吹を感じ、小さな花々に目を奪われ心が和む。
だから私も、時間の許す限りここにやって来る。来る度に新しい発見があり一喜一憂し時を忘れる。
双眼鏡でネコと確信したのは、9月の初めだった。大きな純白のネコはいつも日溜まりの中にいた。
岩の上に寝そべり、鴨やカイツブリの水浴びを眺め、草の上を転がりまわり飽きるとゆっくり森の中へ消えて行った。
でも、間もなく空から白いものが降りてくる。
木枯らしが樹々を押し分け、遠くから風が風を誘い合い森を揺るがし、やがて瑞穂の池も深い眠りにつく。
今日も、リスたちが食べ物集めに奔走し、アカゲラが忙しそうにドラミングに余念がない。
なのに白いネコは、いつものように大きくのびをして、動く気配はなかった。
「雪が降る前にこちらに渡っておいで、一緒に町へ帰ろうよ。春になったらまた好きなだけここに来ればいいのだから」
「誰だろうね、あんな所にネコを捨てたのは」公園管理のおじさんがポツリと言った。
真っ白い狐かとわくわくした日もあったのに。
管理小屋は間もなく閉じられる。
水芭蕉が咲き始めた森の中。まだ白いネコに会っていない。
(98'4'20記)
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