森の話

鹿の群れ

いつも行く森に鹿が現れたと聞いたのは春のことだった。
若葉の香りにつられて迷い込んだに違いない。森に行く度に鹿はどうしただろうと気になっていた。

この森で一番大きな池に歩を進めた。足元からいっせいにバッタが飛びだし,次の1歩を踏み出すことができないシオカラトンボが目の前を横切った。柵で池に近づくことはできないが、対岸に水鳥がのんびりと浮き、短い夏を楽しんでいる。時折鳴き声が賑やかになる。

双眼鏡の奥にアオサギが微動だにせず揺れるヨシの間に見え隠れする。
小魚がいるのか水面が盛り上がりきらりと光る。

ゆっくり双眼鏡を湖面から木々へと移動する。すると、緑の中に動くものが見えた。
赤茶けた土がむき出しの不釣合な場所は肉眼でもよく見える。その奥に確かに動くものがある。
その赤茶けた上から池に向って下りてくるのは確かに鹿だ。動きが止まりこちらを見ている。
一頭、又一頭と、6頭の鹿が水辺に下り池の中に入り出す。立派な角を持った鹿たちの中に明らかに身体の小さい角を持たない2頭の小鹿もいる。
そのうちにバシャバシャと水音を立て泳ぎだした。まるではしゃいでいるように。
池の中程まで泳いでいるのもいる。アオサギも先ほどの姿勢のまま鹿たちを見ている。やがて「さあ、あがりますよ」というように、まだ泳ぎ続けるのを見る鹿。何があったのか全員急にこちらに顔を向けた。
そうしてまた、ゆっくりと森にむかいだした。まだ遊びたいのか最後の鹿はまだ池を見ている。促されるように奥に歩き出し、角だけが木の間からみえた。
つかの間のできごとにドキドキしてしまった。

6頭の鹿の大移動。いったい君たちはどこから来たの。支笏湖?定山渓?夕張?人目に付かずによくこの森に来たものだ。この森は都市に隣接する世界に誇れる森林公園。

間もなくこの池も紅葉した木々が水面を赤く染めあげる。
心なしか森の彩が秋色に変わり始めた。

03.8.1 11:30am



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