森の話
蝶の舞い
   

春ゼミが思う存分鳴いた森はいつもの静けさに戻った。

木々の葉もすっかり生い茂り緑のトンネルの中を行く。
コケイラン、トケンランのひっそりと咲く小さな欄に目を奪われていると、 いつの間にか坂を降りきる。
昨日来の雨で湿気が陽の当たる方へ流れ出し、水の流れた跡だけがそれと判る。

それにしても行く手にある黒い石はどこから流れ出したのか。
そう思うつかの間、その石が一つ揺れた。
風もないのに。
2つ3つと揺れた。
それぞれに揺れだし、揺れが大きくなり湿った空間に舞い上がった。
紛れもなく大きな蝶だ。

1匹に連れて蝶たちがゆっくり私に近づいてきた。
30匹ほどの黒い蝶が私の周りを回りだした。
手が届きそうで届かない距離を一緒にまわった。
驚いて、まいあがっていた私とは対照的にとても優雅な舞だった。
今のは何、夢心地の一瞬だ。

手を広げている私を残して蝶たちは森の奥へ消えた。

色も形もカラスアゲハ。でも羽根の下方に黄色い斑点が鮮やかに並んでいた。
せめてお名前だけでも。

野幌原始林にて

 
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